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海外レポート/UPGRADE YOUR WINTER スイスへの旅【前編】

Stuben Magazineでは毎年、海外取材を行っています。なかでもスキーの本場、ヨーロッパアルプスは何度訪れても学びが多く、感動が積み重なる場所。こちらでは、2018年1月に編集の尾日向が参加したスイスのプレスツアーの様子をお届けします。

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子供のころ、いつか行ってみたい国は?と問われたら「スイス」と答えていた。なぜだかわからないけれど昔からスイスへの憧れがあり、15年前、初めての海外取材もスイスだったから何か縁があるのだろう。海外スキーの行き先として選ぶのなら、お世辞抜きでオススメできる国。観光立国として来訪者にやさしいので、海外旅行に不慣れだとしても安心感が高いのだ。


成田からチューリヒまではスイスインターナショナル エアラインズの直行便で約12時間。スキーの映像を見て、スイスワインを飲み、シベリアの永遠と続く雪の原野を眺め、ウトウトしているうちに到着である。チューリヒからは電車の旅。空港から直通列車1時間で古都ルツェルンへ。スイスは、案内表示が非常にわかりやすく、国全体で統一のデザインが施されている。改札もなく、電車に乗り降りする際の段差もない。切符は事前に用意したスイストラベルパスでスイス国内の公共交通機関が乗り放題。座席の広い1等車に腰を落ち着けると、定刻に、音もなくスーと発車する。これぞスイスの旅の始まり。

今回の取材は、スイス政府観光局が世界各国のジャーナリストを対象に冬のスイスの魅力を紹介するツアー。“UPGRADE YOUR WINTER” をテーマに、単なるスキー旅行、冬の観光旅行にはとどまらない、特別な体験が「アップグレード」されるというもの。

ルツェルンのレストランで顔合わせ。スイス政府観光局のクリストフをナビゲーターに、ドイツ、イギリス、アイルランド、デンマーク、ウクライナ、ルクセンブルグ、チェコ、アメリカ、オーストラリア、香港と各地から大集合だ。年齢層は高く、初対面のためにどこかぎこちないけれど、スキーを滑る時間を共有すればすぐに打ち解けるだろう。そんな期待を胸に始まるのだが、順風満帆には進まないプレスツアーとなるのだった。

最初の行き先は、ルツェルンからフェリーでアクセスするクレーヴェンアルプというスキー場だ。スキーに行くのに、ダウンタウンのホテルから徒歩でフェリー乗り場に向かうという特別感にワクワクするも束の間。スキーウエアを着てチェックアウトし、集合すると、悪天候で予定が変更となってしまった。外は大雨で、スキー場は強風でクローズ……。急遽ルツェルンにもう1泊し、明日にリベンジするため、午前中はフリータイムに。こればかりは仕方ない。雨のルツェルンの町歩きに切り替え、静かな時を過ごす。


街の中心に広がる大きな湖と古い橋、中世の建物が連なる旧市街に、城壁など、どこを取っても美しいルツェルン。中央スイス方面へスキーに行くのなら、1泊はルツェルン滞在を組み入れたいほど、スイスを代表する観光名所となっている。


ランチはルツェルン湖をクルージングしながら船内でコース料理! 移りゆく山並みや湖岸の美しい街並みを眺めながら、優雅なランチタイム。


本当はこうしてフェリーでスキーに向かうはずだったのだけれど。


船は路線バスのように、いくつかのターミナルを経由して、スイス交通博物館へ。ここは、陸・海・空・宇宙すべての交通機関に関するコレクションが展示されている一大ミュージアム。中でもスキーのリフトやゴンドラの歴史がわかるフロアは何時間も見ていたいほど。山深いスイスでは、谷底から開けた山の上に安全に移動できる索道システムが発展した。ロープウェイやゴンドラのみならず、登山鉄道など山岳地帯の輸送には長い歴史と屈指の技術力を誇る。


ヨーロッパ各地のスキーリゾートのポスターコレクションからは、歴史の長さと遊び心、スキーが根付いている文化を感じとれる。

翌朝、外は依然雨。東京では4年ぶりの大雪で交通麻痺というニュースが流れるなか、スイス国内もあちこちで大雪雪崩警報が発令されていた。今回の一番の目的地は中央スイスにあるアンデルマット。ところがアンデルマットに向かう道が雪崩で通行止めになっているという。すでに元々のスケジュールからはズレ込んでいるけれど行く手を阻まれては動きようもない。全員でミーティングの結果、午前中は近場のエンゲルベルグへ、交通状況次第でアンデルマットへ移動しましょうということになった。


エンゲルベルグは、ルツェルンから電車で約45分という近さながら、フリーライドの聖地としても知られるダイナミックな山だ。過去に何度か訪れているので新鮮味はないけれど、やっと雪上に立てるということで気分は一気に高まる。雪雲は青空へと変わり、オフピステに潜む氷河が蒼く光る。麓の町に雪がなくても、ゴンドラとケーブルカーを乗り継ぐと標高3028mまで上がれる。山頂部は景色も雪質も別天地。1日ではとても滑り切れるスケールではないが、ランチタイムに朗報。「アンデルマットへ向かう通行規制が解除されました!」


エンゲルベルグ半日とは滑り足りないけれども、次の目的地へ気持ち新たに、みんなで下山。ヨーロッパのスキー場は標高差がある場合が多く、下山コースが長いというのも特徴的。下る体力を残しておかねばならない。エンゲルベルグの下山コースは、大迫力の山並みを横目に、延々と緩やかなコースが続く。ターンをするかしないかは気まぐれで、何も考えずに風を切って、みんなで下ってゆく感覚。これもまた豊かな気持ちになるセクションなのである。

ルツェルン駅に戻り、荷物を受け取り、いよいよ旅の目的地アンデルマットへ!

後編へ続く>

写真・文/尾日向梨沙

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