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海外レポート/UPGRADE YOUR WINTER スイスへの旅【後編】

昨シーズンに取材を行ったスイス・プレスツアー。国全体が混乱するほどの大雪に見舞われ、足止めを食らいながらも、ようやく目的地のアンデルマットへ。古都ルツェルン&エンゲルベルグを堪能した【前編】はこちら。

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ルツェルンからアンデルマットは、電車で約2時間。天候による急な移動だったため乗り継ぎ悪く、乗り換えは4回。海外スキー取材ではいつも自分のマテリアルを持参するが、今回スキーだけはレンタルにして本当に良かったと、この時思った。とはいえ、普段のスイスでの電車移動でストレスを感じることはない。

車内にはスキー置き場や大型荷物置き場があり、スキーを直に持って電車に乗る人もたくさんいる。駅には必ずスロープがあり、大荷物で階段を上り下りすることもない。スイス国内の駅から駅やホテルへ荷物だけ輸送できるラゲージシステムもあり、うまく利用すれば旅の移動が何倍にもスムーズになる。そして、何よりも電車の旅がいいのは、車窓からの眺め。素晴らしい景観は、自然の恩恵だけでなく、スイスが観光立国として世界からゲストを出迎える最高のおもてなしのように思える。

アンデルマットへ到着したころ、外は真っ暗だったが、雪の量に驚かされる。電車が不通になるのも無理のない、近年稀に見るという大雪に見舞われていた。この日の滞在は「アンデルマット スイスアルプス」というコンドミニアム。大きなリビングにキッチン、2つの個室にはそれぞれトイレとバスルームがあり、長期滞在にも人気だそう。

ディナーは、街の中心部にあるトラディショナルなレストランへ。本格的なチーズフォンデュをいただく。締めには、卵を入れてチーズを固め、オムレツのようになってサーブされた。これがなんとも美味しいこと! ワインとの相性も抜群でついつい飲み過ぎてしまった。

翌朝、いよいよ待ちに待ったアンデルマットでのスキー。全員でレンタルスキーのセッティングをし、スキー場まで10分ほど歩き、インストラクターと待ち合わせをし、雪上へ。だいぶ遠回りをした気分だったので、全員のテンションもマックス。それに応えるかのように、澄み渡る青空と新雪が待っていた。

アンデルマットは、アイガーやマッターホルンのような象徴的な山はないけれど、360度山に囲まれ中央スイスの谷間に開かれた場所。人口1300人の小さな村から、北側と南側にゲレンデが広がる。メインは北側でセドルンというエリアまで延々と横に繋がり、総滑走距離は120kmと広大。ゲレンデマップはこちらへ。

麓の標高は1444m、そこからゴンドラ1本で標高2344mまで上がれば視界はぐっと広がる。ゴンドラの左手の稜線上には4機の風力発電が回る。『Stuben Magazine 02』の特集「山岳リゾートと自然エネルギー」で紹介したように、この風力エネルギーからスキー場や街の電力の一部を賄っている。国土の約2/3が山岳地帯というスイスでは、人々の自然への畏怖や尊重の概念が強く、自然環境への配慮が至る所でなされているのだ。

コースは全体的にオープンワイド。ピステの脇にオフピステがたっぷり残されていて、新雪好きにもたまらない設計だ。とはいえ、エンベルゲルグのようにファットスキーを履いたフリースキーヤーだらけということもなく、サンモリッツのようなハイエンド層も見かけず、ツェルマットのようにレジャースキーヤーやアジアの観光客も少ない。地元のスキーヤー、スノーボーダーを中心に、オールラウンドに雪山を楽しみたいという層に支えられているような印象だ。

インストラクターや現地コーディネイターも交えて14人で滑走していると、スピードや好みにも差が出てくる。パウダーを見つけるとすぐ圧雪コースから外れるのは、スイス観光局のクリストフに、アイルランドの女性カトリーン(上写真)、香港のスノーボーダーのヘルムットに、私。誰からともなく、コース脇のノートラックに飛び込む。特にカトリーンは、スキーが上手で、パウダーが大好き。良さそうなところを見つけると毎回、「Lisa!」と声をかけてくれる。彼女の英語は訛りが強いのか、メンバーの中で最も聞き取りにくく、ヒヤリングが苦手な私は彼女とうまくコミュニケーションが取れないことが残念だった。それでもこの日は2人で何度もパウダーを滑り、一番心が通じ合ったような気がして、涙が出そうなくらい嬉しかった。彼女は50歳でお子さんを育てながら、あちこち旅してジャーナリストとして活躍している。普段の生活なら出会うこともない異国の女性と、ひとつの斜面を共有することで、言葉は通じなくても笑い合える。スキーを続けてきて本当に良かったと思う瞬間だった。

 

スケジュール通りであれば、この日のハイライトは、東へ東へとスキーサファリをして最終的には、山間を走る氷河特急に乗り、アンデルマットまで戻ってくるというものだった。しかもその列車は「アプレスキー・バー」車両を連結。アルプスの絶景を望みながら、アフタースキーの一杯が楽しめるという、なんとも魅力的な「アップグレード」プランであった。しかし数日前の大雪の影響で線路に雪崩が相次ぎ、あいにく運休のまま。楽しみで仕方なかったこちらも次回への持ち越しだ。(写真提供:スイス政府観光局)

ランチは、南側の山にかかるロープウェイを上り景色のいいレストランで。初めの頃はみんな遠慮気味だったけれど、午前中の最高のスキーを讃えて全員ビールをオーダーしている。これもまた至福の時間なのである。

午後はさらにロープウェイで上がり、トップのGemsstock(標高2961m)からの滑走。山頂からはスイス南部のルガーノ、東部のグラウビュンデン州、旅の始まりのルツェルン方面、イタリア北部と大パノラマを一望できる。ゲレンデは午前中に滑ったエリアとは全く違い、超ダイナミックなオフピステエリア。フリースキーヤーやガイドを連れたツアースキー客も多く、上級者向けのワイルドなコースが連なる。コースを外れると氷河帯となるので、クレバスに注意が必要だが、氷河のないオフピステエリアには無数のトラックが刻まれていた。日が当たりにくいので、雪質もよく、午前中にこっちに来たかった、、、と心の中でつぶやきながら、再訪すべき場所がまた増えたと確信するのだった。

夕方はアンデルマットの町歩き。徒歩でまわれてしまうくらいの規模で、教会や小さな礼拝堂、アルプスらしい山小屋など風情のある街並みが続く。3つの峠の間に位置するアンデルマットは、北はドイツ方面、南はイタリア方面と結ぶ交通の要所として古くから栄えた。そのため、様々な文化、言語が混ざり合っている。現在のアンデルマットは、大型コンドミニアムやホテルの開発が進み、スキーエリアも拡大の方向に向かっているが、同時に歴史を感じられる建物や文化をとても大切にしているようにも感じた。

最終日は、最先端の5つ星ホテルでの滞在だ。2013年にオープンした「ザ・チェディ・アンデルマット」は、アマンリゾーツの創始者が代表を務める世界トップクラスの高級ホテル。アルプスの景観に溶け込むシャレー風の建築に、ロビーやラウンジは落ち着きのある間接照明や多数の暖炉でくつろぎを演出。客室はどこに腰を据えたらいいかわからないくらい広い。部屋の電気、テレビ、オーディオ、暖房、照明、暖炉の火加減まで全て専用のiPadで操作が可能。ダイニングキッチンには、天井まで届く圧巻のチーズセラータワーやワインセラー。本格的な寿司や天ぷらがいただける日本食レストランまである。朝食のビュッフェも美味しそうな品々が種類豊富に並ぶので、いくら大きな胃袋と時間があっても足りないほど。残念ながら足を踏み入れる時間もなかったけれど、最上級のスパ&ウェルネスセンターや屋内外プールも完備。スキーリゾートで、世界に誇るラグジュアリーホテルに宿泊というのも、日本ではなかなか体験できないこと。ヨーロッパにスキーに出かけるのなら、スキーの素晴らしい体験とともに、特別な滞在を味わってみるのも良いだろう。(1泊朝食付きひとり6万円代~)


世界11カ国から集まったメンバー。左前が尾日向、その右がカトリーン

あっという間の5日間。ラストナイトはアンデルマットの街でメンバー全員で乾杯。明日は朝早く起きて帰るだけだからと、2次会もワインバーでしっぽりと。ちなみに日本ではあまり知られていないが、スイスはフランスやイタリアに劣らぬワイン大国。ただしスイスワインは、高い品質を保つために生産量が限られ、そのほとんどが国内で消費されてしまうため、海外へ輸出されていない。スイスでしか飲めない、買えない、そして美味しい!ということで、お土産にもオススメだ。

美しい朝焼けの朝、車窓から朝陽に当たるアンデルマットの美しい山々を名残惜しく眺め帰路についた。天候による予定変更も影響し、あまりに短すぎたアンデルマットでの時間。それでも、たった2日間に凝縮されたアンデルマットでの体験は、個人的にはスイスで一番のお気に入りスキーエリアに認定できるほどの好印象が残った。多くの“やり残し”は、絶対にまた来なさい!ということなのだろう。

 

文・写真/尾日向梨沙

【取材協力】
スイス政府観光局(www.myswiss.jp)
スイス インターナショナル エアラインズ (www.swiss.com)
スイストラベルシステム(www.raileurope.jp)

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